夢の終わりに

第 19 話


いったんホテルに戻ってきた俺たちは、まずは風呂に入って着換えろとルルーシュに命じられた。ははー、ルルーシュ陛下のおおせのままに。と言いたいところだが、どうせ風呂を入れるならおまえが先に入れ。すでに臭いと言われたおっさんの加齢臭を考えれば、若者から順に入るべきだろう。・・・というのは建前で、スザクがルルーシュを30分でもいいからホテルに留めたいと耳打ちしてきたので、無理やり理由を用意しているだけに過ぎない。
まー、スザクが先に入ったとして、待ってる間暇だからそこまで買い物に行くとか言われたら、俺じゃ護衛として役不足すぎる。

「俺はまだいい」
「俺たちだけ入って、ルルーシュだけ入らないってのも変じゃん?」
「俺は朝に入っているし、別に問題ないだろう」
「あるある。大いにある。だから、さっさと入って来いよ。俺たちもいい加減腹減ったしさ」

そういいながら俺は洗濯をした自分の衣服をたたんだ。今着る分以外は全部リュックに詰めておかなければ、いざという時にも困るからな。何せ俺は不老不死。いつ誰にそれを気付かれ、追われる身になるか解らない。逃げる用意だけは常に整えておく必要がある。

「ルルーシュ、きみが入らないと僕たちも入れないよ?」

こちらも何食わぬ顔で洗濯物をたたむスザク。
頑固な年上二人に呆れたように息を吐いたルルーシュは、荷物から着替えを出すと浴室に向かった。

「言っておくが、俺は長いぞ?」
「長風呂結構。しっかり温まって来い!」

手を振りながら言うと、諦めたルルーシュは浴室に入った。

「リヴァル、僕ちょっと買い物してくるから。すぐ戻るよ」

ルルーシュに気づかれたくないのだろうか?小さな声でスザクが言った。

「・・・おう、行って来い。出来れば、ルルーシュ出てくる前に戻って来いよ。次お前だからな」

買ったばかりのルルーシュのコートと帽子を手にしたスザクに、俺は空気を読んで小声で返した。・・・それを持って出かけるって、なんでだ?意味がわからん。

「先に入ってていいよ。30分ぐらいかかるから」

そう言いながらあのコートを着て帽子をかぶりフードも被る。正面から覗き込まなければ、さっきのルルーシュと見間違う格好だ。

「余裕余裕。ルルーシュはきっと30分以上入るぜ」
「そうかな?じゃあ急いで片付けてくるよ」

そう言ってスザクはその格好のまま出て行った。
うん、わからん。
窓から外を見降ろし、スザクがホテルを出ていくのをみる。
顔が解らないように俯きながら歩くスザク。
・・・おっと?なんだ?この通りで買い物したりたむろしていた男が何人かスザクに気づいて後をつけたぞ?ん?あー?ああ、そうか。ルルーシュがコート着たりしてるの見てた連中か!こんな所までつけて来てたのか。うわー、ストーカーじゃん、犯罪者じゃん。完全にルルーシュ襲う気満々じゃん!おまわりさーんこいつらです!!
んで、今、あの恰好をしたスザクが一人外に出たから、ルルーシュが一人で出歩いてると勘違いして・・・あー、成程なぁ。スザクこいつらに気づいてたわけか。ってあいつ大丈夫か?腕は立つけど多勢に無勢なんじゃないのか?あいつも可愛い顔してるから、その手の連中に狙われた事もあるわけだし、俺加勢すべき?いやいや、俺まで出て行ったらルルーシュ一人じゃん?俺ら探しに出歩かれたらアウトじゃね?俺はルルーシュの監視兼護衛としてここを護らなきゃならないってことか。
そんなこんな考えていたら、ドアをノックする音が聞こえた。
どうやらルームサービスらしい。
・・・ん?ルームサービス??頼んでたっけ?いや、俺ら今帰って来たばかりじゃん?うわぁ、アレみた後だからめちゃくちゃ怪しさを感じるんですけど!?
念のためナイフを忍ばせているポケットに手を突っ込みながら対応すると、あからさまに動揺する声が返ってきたので思い切ってドアを開けた。

「あ、あの」
「俺ら何も頼んでないと思うんだけど、部屋番号みた?」

平然を装い軽い感じの声で尋ねた。
さすが俺。伊達に長く生きてきたわけじゃないな。

「え、ええと」
「はいはい、ちょっと伝票貸してねー。ああ~この部屋番号っぽいね。でも俺は酒なんて頼んでないぜ?」

ホテルマンが持ってきたのは氷で冷やされているワインとグラスが二つ。う~ん、グラスが2つですか~?グラスも足りないなぁあやしいな~?ねぇねぇお兄さん。顔色悪いよお兄さん。
よしよし。これなら俺でも余裕で追い返せるな。

「あ、あのこれは、あ、さ、サービスでして!」
「へーそうなんだ?じゃあ有難く」

俺はワインクーラーとグラスが乗ったワゴンを受け取った。
瓶と氷がぶつかり、からんからんと涼やかな音がなる。

「あ!」
「なに?」
「あ、いえ、お客様はこのお部屋に滞在されている方で間違いありませんか?」
「間違いないぜ?ちゃんと3人で手続きしてるから確認したら?」

最初のチェックインの時はルルーシュ一人だったから、それを見ていたのかもしれない。その後俺たちとホテルに戻ったときに、変更して3人になった事までは知らないのだ。

「あ、そうですか、3名様ですね、大変失礼いたしました」
「そ、男の三人旅。じゃあよろしく!」

そう言って俺は何も気づいていないふりをしてワゴンを引き入れ扉を閉めた。
・・・ふーーっ、あっぶねー。
おいおいルルーシュさん、安全だと思われる高級ホテル内でもこれですか??おじさん本気で心配だよ!?この短期間で何回危ない目に合うのよ!?俺が不老不死じゃなかったらボディーガードになって付きまといたいレベルの不安しか見てないんですが??

「・・・なんだったんだ?」

浴室の扉が小さく開き、ルルーシュがひょっこり顔をのぞかせた。濡れた黒髪が白い肌に張り付き、頬が赤く染まっているその姿は妙な色香があるから、下手な連中なら瞬殺だろこれ。怖えぇよルルーシュさん。俺の事信頼してくれてるのはわかったけど、無防備にもほどがあるぜ!?

「なんかさ、サービスでワインくれたんだよ」
「ワイン?・・・ああ、なかなかいいワインだな」
「見て解るのか?」
「解るだろ?」
「俺には解らん」
「そうか・・・グラスは2つなのか?足りないだろう」
「そりゃあルルーシュさん、きみは未成年でしょ」

実年齢は知らないが、あの頃のあいつとそっくりの見た目なんだから18歳前後だと予想しているが、どうなんだろうな。個人情報を出す事を渋るルルーシュは、案の定だんまりだ。

「・・・」
「でもまあ、もし18超えてるなら解禁年齢か。俺は部屋にあるグラス使うから、スザクが戻ってきたら軽く飲もうぜ?」

国によって飲酒可能年齢は違うが、ブリタニア人なら18歳からだ。
先ほどのルルーシュの反応を見る限り、ワインは飲んでいるっぽいし、まあ大丈夫だろう。俺は結構飲めるし、スザクに至ってはざるだから、護衛の面でも問題は無い。

「その前に、二人とも風呂だ。氷はどのぐらい持ちそうだ?」
「結構入ってるから余裕でしょ。スザクはちょっと部屋を出てるからさ、お前は風呂に戻ってちゃんと温まって来い」
「解った、あいつが戻ってきたらすぐに出る」

どうやら長風呂は本当らしい。

「おう、のぼせるなよ」
「ああ、わかっている」

そう言い残し、ルルーシュは浴室の扉を閉めた。

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